誰かの生活費を負担することを「扶養」といいます。扶養控除とは、所得税・住民税の計算にあたって、あなたが親族を扶養している場合に税金が安くなる仕組みです。
扶養に関わる金銭的なサポートは、税金以外では社会保険の制度にも組み込まれています。また扶養手当、家族手当などの名目で、給料に加算する会社なども多くありますね。
ここでは、税金に関わる扶養をサポートする仕組みについてみていきます。
扶養控除をわかりやすく解説します
「控除」は税法で使われる言葉で、差し引くという意味です。
個人に課せられる所得税や住民税は、下図のように4段階で計算します。
(税額の計算方法)
まず収入から必要経費を控除して「所得」を算出します。
次に、所得から税法で認められている金額の「所得控除」をすると「課税所得」が計算されます。「扶養控除」は親族などを扶養している人に認められる、所得控除のひとつです。
課税所得に税率を掛けて
さらに税法で認められている金額の「税額控除」をすると、あなたが実際に負担する税額が決まります。
ご覧のとおり、控除は所得控除と税額控除の2段階になっています。控除金額は所得税と住民税で異なりますが、控除項目はどちらもほぼ同じです。
扶養控除の対象となる親族は、現実的にはあなたの子どもと、あなたや配偶者の親兄弟ぐらいまでになることが多いでしょう。しかし、法律上の扶養親族の範囲はかなり広く「6親等内の血族と3親等内の姻族」と、都道府県知事から養育を委託された児童(いわゆる里子)、市町村長から養護を委託された老人が対象となっています。
どのくらいの親戚が扶養親族になるかというと、あなたの祖父母のいとこ、いとこの孫、はとこが6親等の血族にあたり、配偶者のおじ、おば、配偶者側の甥、姪は3親等の姻族です。
あなたと生計を一にしている(あなたに生活費を負担してもらっている)親族の合計所得金額が38万円以下のとき、その親族はあなたの扶養親族となり、扶養控除の対象となります。
扶養控除できる金額の一覧表
では具体的に扶養控除の金額は、いくらになるのでしょうか。
税法上の「扶養控除」という言葉には明確な範囲が定義されていますが、扶養に対する金銭的な支援という税法の仕組みは、扶養控除の定義よりも広い範囲にわたり、これを人的控除といいます。
扶養控除をふくめた人的控除の金額を一覧表にまとめました。所得税と住民税では控除金額が異なります。
(人的控除の金額)
対象者要件 | 控除金額 | |||
所得税 | 住民税 | |||
基礎控除 | 本人 | 38万円 | 33万円 | |
配偶者控除※1 | 所得≦38万円 | 38万円 | 33万円 | |
老人扶養親族 | 70歳以上 | 48万円 | 38万円 | |
配偶者特別控除※1 | 38万円<所得≦123万円 | ※2 | ※2 | |
扶養控除 | 16歳以上かつ所得≦38万円 | 38万円 | 33万円 | |
特定扶養親族 | うち19歳以上23歳未満 | 63万円 | 45万円 | |
老人扶養親族 | うち70歳以上 | 48万円 | 38万円 | |
同居老親等 | うち70歳以上で納税者と同居 | 58万円 | 45万円 | |
障害者控除 | 本人又は扶養親族が障害者 | 27万円 | 26万円 | |
特別障害者 | うち本人又は扶養親族が特別障害者 | 40万円 | 30万円 | |
同居特別障害者 | うち特別障害者で納税者と同居 | 75万円 | 53万円 | |
寡婦控除※3 | ①夫と死別 ②夫と死別又は離婚し、かつ扶養親族等を有す | 27万円 | 26万円 | |
特別寡婦※3 | ②のうち扶養親族である子を有す | 35万円 | 30万円 | |
寡夫控除※3 | 妻と死別又は離婚し、かつ扶養親族である子を有す | 27万円 | 26万円 | |
勤労学生控除※4 | 本人が学生または生徒 | 27万円 | 26万円 |
※1 納税者の合計所得金額が1,000万円以下であることが要件
※2 平成30年以降(住民税は平成31年)は納税者の合計所得金額によって控除金額が異なる
くわしい内容については、こちらの記事をご覧下さい。
関連記事>>>配偶者控除と配偶者特別控除が平成30年からかわります
※3 納税者の合計所得金額が500万円以下であることが要件
※4 本人の合計所得金額が65万円以下かつ勤労以外の所得が10万円以下であることが要件
人的控除の適用には「合計所得金額」の水準が要件のひとつとされています。合計所得金額の計算方法はこちらの記事にくわしく書いていますので、興味のある方はぜひお読み下さい。
関連記事>>>所得税の計算方法を簡単に説明 合計所得金額と控除額の計算
扶養親族の対象年齢が16歳以上になったのは、平成23年以降です。それまでは扶養控除の対象だったのですが、平成22年の税制の変更で「子ども手当(現児童手当)」が出来たために、扶養控除の対象外となりました。また、このときに高校の授業料も無償化されたので、18歳未満の特定扶養控除は廃止され、対象年齢が大学生にあたる19歳以上23歳未満となっています。
扶養控除の計算はいつからするか
所得税や住民税は、1月1日から12月31日までの1年間の所得に対して課税されます。そのため12月31日時点の現況で、税額の計算をおこないます。
前項の(人的控除の金額)の表にある対象者要件も、その年の12月31日時点の年齢、合計所得金額で判断します。12月31日時点で対象者要件を満たす扶養親族の扶養控除の金額を合計して、扶養控除の総額が算出されます。
たとえば扶養親族だった子どもが就職して4月から独立するような場合、扶養親族は4月からひとり減ることになります。しかし税金の計算は12月31日時点が基準なので、扶養を外れるのが4月でも12月でも同じ扱いとなります。
ただ、あなたが会社勤めをしていると、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を4月の時点で総務などに提出させられるかもしれません。その結果、天引きされる源泉徴収の所得税額がたぶん少し増えます。
もし申告書を4月に提出しなかったとしても、年末には扶養親族に異動がないかどうかを確認されると思います。扶養親族がひとり減っていれば、結局年末調整で過不足が精算されるので、1年で支払う税額に差異はありません。
でも、勤め先で扶養控除等(異動)申告書の提出を求められる場合は、それにしたがうのが穏便です。勤め先には、国から適正に源泉徴収する義務が課されているからです。
逆に結婚したり、親と同居をはじめて扶養親族が増えるときは、異動申告書を提出することで天引きされる所得税額を減らすことができます。
自営業などで確定申告をしている人は、年中に扶養親族の増減があっても税金の計算と納付は翌年の確定申告の時になります。だから、扶養控除の計算をいつからするかを気にする必要はありません。
まとめ
親族を養っている人への金銭的なサポートは、税金の面では所得控除という仕組みの中に組み込まれています。
扶養をサポートする仕組みは、この他に健康保険(正式名称は医療保険です)と年金の中にも存在しています。税金の扶養控除とはまったく別物ですが、言葉が似ているので混乱する人もいるようですね。
社会保険の扶養の仕組みについては、こちらの記事で詳しく書いています。
関連記事>>>健康保険の扶養の条件 収入の基準とか扶養から外れる条件とか
当ブログの扶養に関連する記事の一覧は、こちらからどうぞ>>>扶養、扶養控除、扶養家族に関する記事の一覧
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