5月10日に、6月7日から始まるサッカー女子ワールドカップフランス大会に出場するなでしこジャパンのメンバー発表がありました。
今年まだ所属チームで出場がない阪口夢穂選手がメンバーに名を連ね、昨年後半から台頭してきた代表経験の少ない選手が多く選ばれています。
なでしこジャパンの高倉監督がどういう思いでこのメンバーを選んだのか、考えてみました。
なでしこジャパンのメンバーが発表されました
フランス大会に出場する23人は、以下のとおりです。
GK
山下杏也加(日テレ・ベレーザ)、池田咲紀子(浦和レッズレディース)、平尾知佳(アルビレックス新潟レディース)
DF
熊谷紗希(オリンピック・リヨン)、三宅史織(INAC神戸レオネッサ)、南萌華(浦和レッズレディース)、市瀬菜々(マイナビベガルタ仙台)、清水梨紗(日テレ・ベレーザ)、鮫島彩(INAC神戸レオネッサ)、宮川麻都(日テレ・ベレーザ)、宇津木瑠美(シアトル・レインFC)
MF
阪口夢穂(日テレ・ベレーザ)、三浦成美(日テレ・ベレー)、杉田妃和(INAC神戸レオネッサ)、長谷川唯(日テレ・ベレーザ)、中島依美(INAC神戸レオネッサ)、籾木結花(日テレ・ベレーザ)
FW
岩渕真奈(INAC神戸レオネッサ)、横山久美(長野パルセイロ・レディース)、菅澤優衣香(浦和レッズレディース)、小林里歌子(日テレ・ベレーザ)、植木理子(日テレ・ベレーザ)、遠藤純(日テレ・ベレーザ)
僕が予想した選手と選ばれた選手は、3人ちがっていました。
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GK山根恵里奈、DF有吉佐織、FW田中美南が外れて、GK平尾知佳、FW遠藤純、FW植木理子が選ばれています。
前回2015年の準優勝を経験した選手は、キャプテンのDF熊谷、宇津木、鮫島、MF阪口、FW岩渕、菅澤の6人。菅澤以外の5人は、2011年の優勝メンバーでもありました。17人がワールドカップ初出場のフレッシュなメンバーです。
今回のメンバー選考は、FIFAランキング7位というなでしこジャパンがワールドカップで優勝するため、高倉監督が何を考えているのかがよくわかるものになりました。
キーワードは「伸びしろ」です。
女子ワールドカップフランス大会で優勝国予想をしているブックメーカーのオッズでは、日本代表チームはカナダと並んで5位でした。FIFAランキングよりは高い評価ですが、どちらにしても2番手グループのひとつです。
上位にいるのはアメリカ、ドイツ、開催国フランスとイングランドの4チームで、高倉監督はメンバー発表の席で「普通にやっていたら勝てない」と述べています。
優勝するためには、開催まであと1ヶ月を切った今から、さらに何かを上乗せする必要があると考えているのでしょうね。
そこで選手選考にあたっては、選手が壁にぶつかったときの反発力に注目していた、と述べています。選手の今の地力だけでなく、課題が出たときの姿勢や乗り越える力といった、いわば成長する能力といったものを観察していたのですね。
それで「伸びしろ」です。
「伸びしろ」のひとつは、昨年大怪我をして今年まだ公式戦に復帰していない阪口夢穂選手です。
怪我をする前は攻守の要で、チームに創造性をもたらす大黒柱でした。22歳だった2011年のW杯で、澤穂希さんとボランチのレギュラーコンビを組んで優勝に貢献した天才肌のMFです。
阪口がプレーできなくなってから、ボランチには多くの選手が起用されましたが、阪口に代わる選手はいなかったようです。
所属の日テレ・ベレーザが阪口をムリに起用しないでも勝てる強豪チームなので、チームの協力で大会に照準をあわせてリハビリをしていたということですが、練習と公式戦では体への負荷がまったく異なります。
本人も、試合勘が戻るかどうかは心配だとコメントしていますが、公式戦に出場していないのは、やはりギリギリ間に合うかどうかのコンディションなのかもしれません。
それでも、彼女がメンバー入りできたのは大きいですね。出場すれば創造性を生みだせる選手で、いるといないとでは大違いでしょう。阪口がプレーできる時間が長いほど、なでしこジャパンのプレーはよくなると思います。
田中美南落選の理由とは
もうひとつ高倉監督が意図してチームに「伸びしろ」を組み込んだのが、田中美南選手を選外にした選手選考です。
なでしこリーグで3年連続得点女王、昨期のMVPで今シーズンも得点ランキングトップを走っている田中美南選手の落選には、驚かされました。
でも、ここにチームとしての「伸びしろ」を最優先とした高倉監督の考えが、はっきり現れていると思います。
代表チームの23人を構成するとき、ふつうはポジション毎にレギュラーとサブをひとりづつ、GKは3人を選びます。
高倉監督のなでしこジャパンは、DFからFWの並びを4-4-2でプレーしているので、ふだんはDF、MF登録の選手を各8名、最前線のFWは4名選ぶのですが、今回のメンバー選考ではMFとFWに各6名を配しています。
これは田中を外して、代わりにFWを3人選んだと考えると納得がいきます。田中を選ぶか、今が旬の若手3人をまとめて選ぶか、という選択だったのではないかと思います。
選ばれた遠藤と植木は、昨年U-20ワールドカップで優勝したヤングなでしこの中心選手でした。小林も2014年のU-17W杯優勝メンバーで、翌2015年のAFCU-19選手権では大会MVPに輝いています。
いずれもスピードが持ち味で、世代別では世界チャンピオンになったことのある選手です。何より選ばれた3人は、今年代表デビューしたばかりながら、勢いがあります。
高倉監督は3人の誰かが大化けして、世界のトップチームとの差を埋めるラストピースになる可能性に賭けたのではないでしょうか。
逆に言えば、前線の誰かが大ブレイクしなければ、アメリカ、フランスやイングランドにはまず勝てないと思っているのでしょう。
僕は、田中、菅澤、横山、岩渕のFW4人は確定枠だと思っていましたが、誰かひとりを外さなければいけないなら、田中という選択はわかる気がします。
田中は4人の中で、一番バランスのとれたFWです。だからこそのなでしこリーグの実績なのですが、日本国内ではうまくいくプレーも、国際大会では強くて高くて早いDFに阻まれてしまいます。
菅澤の高さ。横山のミドルシュート。岩渕のドリブル。こうした突出した武器がない田中は、今回の選考基準では4人の中で一番不利でした。
僕の勝手な想像ですが、高倉監督の中では小林、遠藤、植木の3人をあわせた未知の可能性が、田中の得点力や確実性を上回ったのだと思います。勢いのある攻撃の選手が2人しかいなければ、田中を外すことはなかったのではないでしょうか。
余談ですが、小林、遠藤、植木の3選手は、田中と同じ日テレ・ベレーザの所属です。チームで絶対的エースとして君臨している田中を差し置いて代表チームに同じポジションで選考されたことは、単純に嬉しいと喜べない状況だったかもしれません。
FWを6人にしたのは、高倉監督の田中選手と選ばれた3人に対する配慮とも考えられます。
遠藤は所属チームではサイドアタッカーですし、小林も植木もサイドができる選手ですから、3人をFW1名、MF2名に割り振っても不自然ではなかったと思います。
そこをあえてFW3名にしたのは、FWに配される選手がひとりだけだと、田中の代わりと必要以上に重荷を背負い込んでしまいかねないからであり、同時に田中に誰かひとりに負けたのではないとメッセージを送っているようにも見えます。
3シーズン続けて日本で一番得点している選手を外すのは、とても重大な決断です。FWを2人増やした結果、コンディションが整うかどうかわからない阪口のいるMFが6人になりました。
とはいえ、MFができる選手がFWやDF登録で多く選ばれているので、そこまでMFが手薄になったという印象はありません。1ヶ月足らずの内に7試合の過密日程で決勝まで戦うための、最低限のリスク管理はできているようにみえます。
こうした選考は、高倉監督の手腕が想像できてなかなか興味深いですね。
田中の代わりに選ばれた小林、遠藤、植木がどのように起用されるのか、どんなプレーを見せるのかが注目されます。
なでしこジャパンのレギュラーは誰になるか
高倉監督のなでしこジャパンは、佐々木前監督時代と比べると実に多くの選手を使ってきました。
その分、選手起用の流動性も高いのですが、先発11人中確実なレギュラーは以下の9人というのが僕の見立です。
GK山下
右SB清水、CB熊谷、左SB鮫島
右MF中島、ボランチ阪口、左MF長谷川
FW菅澤、岩渕
熊谷のパートナーになるCBのもうひとりは市瀬がよく使われていましたが、怪我でしばらく離脱しているうちにかなり流動的になりました。2018年8月のアジア競技大会では、本職が左SBの鮫島が起用されるなど、なかなか安定しなかったポジションです。
ただ、2019年に入って南がかなり信頼を得ているようです。このポジションは鮫島のバックアップでDF枠に入っている宇津木もレギュラークラスの力があると思いますが、宇津木はボランチで先発もありうるので、南か市瀬を先発起用の可能性が高いと思います。
ボランチは阪口が出られるかどうかでちがってくるでしょう。阪口がいるなら守備で力を発揮する選手ということで、三浦か宇津木が第一選択になりそうです。
阪口が起用できないときは、阪口に代わるボランチはゲームメーカータイプの杉田で、もうひとりに三浦か宇津木というのが順当でしょう。でも、阪口がいないときは中島をボランチにまわして、籾木を右MFで先発させるという選択もあると思います。
ただ、最近は杉田と三浦が代表でよいプレーをしているので、阪口が出場できないときはこの2人が軸になればいいのではないかと思います。
またMFは阪口が出場できない場合、相手との力関係によって先発を替えるローテーション的な選択もあるのではないかと思います。
よっぽどのことがない限り、小林、遠藤、植木の3選手はベンチからのスタートになると思いますが、伸びしろを期待して呼んだのなら、どこかで使ってみないと確かめようがありません。
ワールドカップ初戦までになでしこジャパンが対戦できるのは、6月2日に予定されているスペイン代表との親善試合だけです。
1試合だけで序列をひっくり返すのは大変です。3選手には、高倉監督が使いたくなるような奮闘を日頃の練習から期待したいですね。
関連記事>>>なでしこジャパンのワールドカップ初戦 アルゼンチン戦は引き分け
まとめ
ワールドカップ直前のスペインとの親善試合は、BS日テレで日本時間の6月2日(日)午後8時50分から生中継されます。
なでしこジャパンのキープレーヤー阪口のコンディション、本大会での選手起用と気になるテーマを知るには必見ですね!
この6月、なでしこジャパンの世界チャンピオンへの再挑戦を楽しみに待ちたいと思います。
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