今年の日本アカデミー賞で6冠に輝いた映画「三度目の殺人」をテレビ放送で観たので、少々ネタバレの感想を書きました。
意味がわからないという声もある「三度目の殺人」ですが、モヤモヤするポイントの「器」の意味や、結局犯人が誰なのかについても考察してみました。
三度目の殺人 映画の感想
まず一度観て、正直よくわかりませんでした。とくにラストの福山雅治さん演じる重盛の「あなたは、ただの器?」というセリフ。
そこで録画しておいたのを、早送りをしながら何度か見返して、セリフを書いてみたりして、ようやく腑に落ちたというところです。
この作品の主演は福山雅治さんですが、主役は間違いなく役所広司さんの三隅高司です。「羊たちの沈黙」のレクター博士的な立ち位置というような。
福山さんが演じる弁護士重盛は、三隅に振り回されるだけでしたからね~
当時、けっこうメディアを賑わした話題だったと思いますが、日本アカデミー賞で最優秀作品賞を獲得し、是枝裕和監督が最優秀監督賞、最優秀脚本賞、最優秀編集賞、役所さんが最優秀助演男優賞、広瀬すずさんが最優秀助演女優賞に輝いたのに、主演の福山さんが主演男優賞にノミネートすらされなかったのは、ここに理由があったのではないかと思いました。
是枝監督はこの作品を撮る前に、徹底的に弁護士や検察官、裁判官など司法関係者を取材しました。
そこでみんなが異口同音に「裁判は真実を明らかにする場ではない」と話すのが、大変興味深く思えたそうです。そもそも「真実なんてわからない」というのが、法曹関係者の共通認識でした。
それで「真実が何かわからない法廷劇を撮ろうと思った」のだそうで、その結果できあがった作品が「三度目の殺人」です。
真相究明よりも、予定通りに公判をすすめることが優先される司法システムの姿は、吉田鋼太郎さんが演じる重盛の同僚弁護士摂津や、満島真之介さんが演じる重盛の軒弁川島のセリフなどで、皮肉を込めて描かれています。
監督が「わからない法廷劇」を撮ろうとしているので、見終わっていろいろモヤモヤするのは当然の結果だろうと思いますが、そうはいっても気になるのが事件の真相です。
- 結局、二度目の殺人の犯人は誰なのか?
- タイトルにある「三度目の殺人」とは何を指しているのか?
このあたりを知ることが、是枝監督があえて余白を残して描いた真相を浮き彫りにしてくれるのではないかと思いました。
三度目の殺人 器の意味を考える
「器」は、この作品のキーワードです。
最初に出てくるのは、重盛と川島が会いにいった北海道・留萌の元警察官渡辺の言葉です。
渡辺は、一度目の殺人事件で三隅を逮捕しました。高利貸し二人を殺して事務所に火を放った三隅に、被害者に対する個人的な動機はなかったと断言します。
同時に殺人事件の背景として、炭鉱が閉鎖されて不景気になった留萌では、高利貸しに苦しめられていた人が多くいたことも示されます。
ここで描かれたのは「他人の殺意を宿して人を殺す」三隅の特異なキャラクターです。三隅が持つ「器」は、他人の殺意を汲み取るのです。
これがラストシーンの重盛のセリフ「あなたは、ただの器?」につながります。
三度目の殺人で犯人は誰なのか
三隅がもつ「器」が、他人の殺意を汲み取って殺人事件を起こすのならば、二度目の殺人は三隅の単独犯だったと考えられます。
二度目の殺人の被害者は、三隅が雇われていた食品加工会社の社長山中です。山中は、広瀬すずさんが演じる実の娘の咲江に性的暴力を働きレイプを繰り返していました。そして、その秘密を咲江は三隅と共有しています。
咲江が父親に殺意を抱いていたことは、咲江が自ら重盛に話します。咲江と三隅が山中を殺害しているようなシーンもあるので、咲江は三隅と共犯だった可能性もあります。
でも、僕は三隅の単独犯だと考えます。理由は以下の2つです。
- 咲江と三隅が山中を殺害しているような映像は、重盛が夜遅く現場の河川敷を見にいったときに、重盛の頭の中に流れたものとみることもできます。そのシーンの直後、夜遅く重盛が拘置所の三隅を訪ねるシーンで、重盛の革靴とズボンの裾についている土汚れが映し出されます。三隅の視線が重盛の足元に向けられることで、汚れのついた靴が強調されています。
- 三隅は山中を殺害したあと、タクシーを拾って河川敷から戻ります。健常者がタクシーを使う場所で、足の悪い咲江が歩いて戻ってきたとは考えにくいです。つまり、殺害現場に咲江はいなかったとみるのが自然ではないかと思います。
三隅は「空っぽの器」に咲江の殺意を汲み取って、単独で山中を殺害したのだと思います。これが三隅の二度目の殺人です。
そして「三度目の殺人」は、三隅に下される死刑判決を指しています。
咲江が三隅の減刑のために法廷で秘密を明かすと申し出たことを知ると、三隅は一転して自分は山中を殺していないと供述を翻します。しかし、それを裏付けるものはなく、法廷でそのように主張すると死刑回避はいっそう困難になります。
にも関わらず、重盛は弁護方針を変更して三隅の翻意に乗ります。それは咲江と同じ年頃の娘をもつ重盛が、咲江に辛い証言をさせたくないと考えたからでした。重盛は、三隅も同じ想いだからこそ供述を翻したのだ、と思っています。
結果、三隅には死刑判決が下され、咲江は法廷で秘密を明かすことはありませんでした。
そして、ラストシーン。三隅と重盛は、拘置所の面会室でアクリル板を挟んで、話をします。
重盛「あなたは、咲江さんにつらい証言をさせずに済む。そう考えた。そう考えて、わざと否認を。。。」
三隅「それは、私への質問ですか?」
重盛「質問に、なってないか。」
三隅「僕からもひとつ質問を。あなたは、そう考えたから私の否認に乗ったんですか?」
重盛「ええ、ちがうのかな?」
三隅「でも、いい話ですね。それはいい話だ。私はずっと、生まれてこなければよかったと思ってました。」
重盛「なぜですか?」
三隅「私は傷つけるんです。いるだけで。周りの人を。もしいま、重盛さんが話したことが本当なら、こんな私でも誰かの役に立つことができる。」
重盛「それがたとえ、人殺しでも?」
三隅「ええ、もし本当なら、ですけどね。」
重盛「それは、つまり。僕がそう思いたいだけってことですか?」
三隅「駄目ですよ重盛さん。僕みたいな人殺しに、そんなこと期待しても。」
重盛「あなたは、ただの器?」
三隅「なんですか?器って。」
重盛は、自身の想いが三隅の死刑判決を招いたと思い至り、愕然とします。
三隅は重盛の想いあるいは願いを「器」に汲み取って、自身に死刑判決が下るように動いたのでした。これが「三度目の殺人」です。この構図では、三隅が重盛の「殺意」を汲んで、自らを殺したことになります。
もちろん、弁護人の重盛が依頼人の三隅に「殺意」を抱くはずはありません。しかし、三隅の死刑回避よりも咲江の証言回避を優先したことは、弁護士としては「殺意」を抱くに等しい行為だと、重盛は自覚したのではないでしょうか。
しかし、別の可能性もあると思います。こちらの方が、僕は好きです。
三隅の話には嘘が多いのです。だから、この最後の場面だけ三隅が自分の心境を正直に語っている、というのもおかしいわけです。
そもそも咲江が中山にレイプされていたことを、三隅は嘘だと言っています。そんな事実は、存在しないと。
その前提なら、ありもしないことを咲江は証言しようがないわけです。だからその心配を三隅がする必要もない、という理屈です。
「駄目ですよ重盛さん。僕みたいな人殺しに、そんなこと期待しても。」と、重盛の期待通りに三隅が考えないからといって、三隅が咲江を思いやっていないことにはなりません。
むしろ、咲江が嘘つきだというのは、三隅の咲江に対する「優しさ」です。
結局、三隅も重盛と同じように考えたのです。だから三度目の殺人は、重盛の想いを汲み取った「器」としてではなく、三隅が自分の意思ではじめて行った「殺人」です。
三隅は、三隅自身を含めて4人を「殺し」ます。1人目、2人目は留萌での最初の殺人。3人目の山中と4人目の三隅自身が、二度目と三度目の「殺人」です。そして、この二度の「殺人」で、三隅は咲江を父親から開放しようとしたのです。
5羽飼っていたカナリアを、1羽逃して4羽を庭に埋めたというエピソードは、三隅が山中殺しの犯人であることを示唆していると思います。
まとめ
「三度目の殺人」は、是枝監督が意図した通り、何が真実なのかわからない映画です。その余白にどんな物語を想像するのかは、人それぞれです。
そこに、この映画の楽しみもあると思います。
「三度目の殺人」をまだご覧になっていない方、テレビ放送以外にも無料で観られる方法があります。
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