扶養を外れる損得 主婦の収入の壁とは何か 損益分岐点はいくらか

扶養 扶養控除 扶養家族
この記事は約10分で読めます。

主婦が働いて家計の収入を増やしたいと考えるなら、扶養を外れる損得をよく見極める必要があります。

旦那さんの扶養に入っている主婦の「収入の壁」って何のことなのか。家計の収入を増やせる損益分岐点は、いったいいくらになるのか。

この記事はそういうことを書いています。

扶養を外れる損得

旦那さんの扶養に入っている主婦が、パートなどの仕事で収入を増やしていくと、どこかで扶養から外れることになります。

扶養から外れると、そこからある程度の収入を上乗せするまで、手取りが減ってしまいます。これを「収入の壁」といいます。収入の壁を超えて稼げるようになれば、扶養を外れる前とくらべて手取りが増えるので得になり、収入の壁を超えられなければ働き損ということになります。

いくらからいくらまでが「壁」になるのか、ここではその幅について考えます。

あなたが仕事をすることで扶養を外れるのは、以下の3つのケースです。

  1. あなたが、旦那さんの給料の「家族手当」あるいは「扶養手当」の支給要件から外れて、手当が減額されるか支給されなくなる
  2. あなたがパート先で社会保険に加入することになって、旦那さんが加入している社会保険の「被扶養者」の資格を失う
  3. あなたのパート収入がこの先1年で130万円超の見込みとなったため、旦那さんが加入している社会保険の「被扶養者」の資格を失う

1の手当の支給要件は、勤め先によってさまざまなルールがあります。手当のないところもあります。

制度がある場合、課税される「所得のない人」あるいは社会保険の「被扶養者」であることが、支給対象になる人の要件になることがよくあります。もし「所得のない人」が支給要件だと、その年のパート収入が103万円を超えると、旦那さんに手当が支給されなくなります。

2は、パート先であなたが社会保険の加入要件に該当することになったためで、パート先の会社とすれば法的義務になるので、あなたに加入しないという選択肢はありません。

社会保険は二重に加入ができないので、旦那さんの社会保険であなたの「被扶養者」の資格はなくなります。パート先の社会保険料は、あなたが自己負担することになります。一方、旦那さんの勤め先の社会保険では、年間の保険料が給与水準で決められているので、旦那さんの社会保険料はあなたが「被扶養者」から外れても軽減されません。

※ 2の加入要件はこちらの記事で具体的に書いています。ぜひ一度、目を通してみて下さい。

関連記事>>>パートで扶養を外れるタイミングと手続き 健康保険はどうなる

3は、よく「130万円の壁」とよばれるものです。年収130万円超というのは、社会保険制度の見方では自立できるほどの収入になるため、旦那さんの社会保険で「被扶養者」から外されることになります。

あなたはパート先の社会保険に入れてもらうか、居住地の市区町村で「国民健康保険」と「国民年金」に加入するか、どちらかを選択しなければなりません。あなたが負担する保険料と年金の掛金は後者の方が大きくなります。給料が130万円超になると、パート先の社会保険に加入できる可能性も十分あると思います。いずれにしても、保険料は自己負担になります。

扶養を外れるときの「損」はいくらでしょうか。

1の場合は支給されなくなった手当の金額が損になりますが、旦那さんは支給されなくなる手当の分、所得も減って税金が減るので、税金分は差し引くのが妥当な評価になります。所得税と住民税をあわせると、旦那さんの税率は最小15%~最大55%です。

そのため、扶養を外れる損は、支給されなくなった手当の85%~45%の金額になります。月額1万円ならば、年間12万円の85%~45%で102千円~54千円、月額2万円とすれば年間204千円~108千円になります。

この損をカバーするには、下の表の手取り金額の増加額が損の金額を上回るところまで収入を増やす必要があります。

※ 以下の計算は端数処理が税法とちがうので、参考金額として御覧下さい。実際の税額はこのとおりにはなりません。

あなたの給料と手取りの増加額(単位:円)

給料所得税住民税手取り金額手取り増加額
1,030,000
0
10,000
1,020,000
1,050,000
1,000
12,000
1,037,000
17,000
1,100,000
3,500
17,000
1,079,500
59,500
1,150,000
6,000
22,000
1,122,000
102,000
1,200,000
8,500
27,000
1,164,500
144,500
1,250,000
11,000
32,000
1,207,000
187,000
1,270,000
12,000
34,000
1,224,000
204,000
1,300,000
13,500
37,000
1,249,500
229,500

けっこう幅がありますけれど、最小で110万円、最大で127万円までお給料を増やすと、働き損が解消できます。

2の場合は、扶養が外れる前に無償だったあなたの社会保険料が、損にあたります。正社員の4分の3以上という勤務時間基準で社会保険の加入義務が生ずる場合、給料は平成29年度の法定最低賃金737円で働くとして月額88,440円(737円×120時間)になります。もうひとつの短時間労働者基準では月額88,000円以上が要件のひとつです。いわゆる「106万円の壁」とよばれる基準ですね。

金額がだいたい同じになるので、仮に短時間労働者基準で社会保険に加入することになるときの、社会保険料負担と働き損を解消できる金額をみてみましょう。

※ 社会保険料、国民健康保険料は以下のデータを参考にしています。保険料は介護保険料込みの40歳以上を対象とし、給与所得控除と基礎控除以外の控除はないものとしました。計算結果は参考金額として御覧下さい。実際の金額とはちがいます。

参考サイト>>>協会けんぽ(東京都)の平成29年9月分標準報酬月額表

参考サイト>>>H30 国民健康保険料の目安(金沢市)

 

【106万円の壁】社会保険料を負担して手取り金額が増える収入は(単位:円)

月額給料給料年額所得税住民税社会保険料年額手取り金額手取り差額
1,055,900
1,295
12,590
1,042,015
88,000
1,056,000
0
0
157,656
898,344
▲143,671
93,000
1,116,000
0
1,043
175,572
939,385
▲102,630
101,000
1,212,000
0
9,568
186,324
1,016,108
▲25,907
104,000
1,248,000
1,584
13,168
186,324
1,046,925
4,910

まず、扶養を外れるときに16万円近くの社会保険料の負担が生じます。年収を125万円まで増やせると、働き損が解消します。

3の場合も、新たに負担することになる社会保険料が損の金額になります。パート先で社会保険に加入できる場合と、国民健康保険と国民年金に加入する場合はわけて考える必要があります。

社会保険に加入できる場合、社会保険料負担と働き損を解消できる金額は以下のとおりです。

 

【130万円の壁】社会保険料を負担して手取り金額が増える収入は(単位:円)

月額給料給料年額所得税住民税社会保険料年額手取り金額手取り差額
1,300,000
13,500
37,000
1,249,500
114,000
1,368,000
6,330
22,660
211,404
1,127,607
▲143,671
122,000
1,464,000
10,413
30,827
225,732
1,197,028
▲52,472
128,000
1,536,000
14,013
38,027
225,732
1,258,228
8,728

扶養を外れると21万円強の社会保険料が生じます。年収を1,536千円まで増やせると、働き損が解消します。

国民健康保険と国民年金に加入する場合は、保険料負担と働き損を解消できる金額は以下のとおりです。

【130万円の壁】国民健康保険を負担して手取り金額が増える収入は(単位:円)

給料所得税住民税国民健康保険料
国民年金
手取り金額手取り差額
1,300,000
13,500
37,000
1,249,500
1,400,000
1,390
12,780
342,204
1,043,627
▲205,873
1,600,000
9,988
29,976
370,244
1,189,793
▲59,707
1,680,000
12,523
35,047
377,534
1,254,896
5,396

年収130万円の国民健康保険料と国民年金の掛金の合計は328千円ほどになります。年収が168万円になると働き損が解消されます。

主婦の収入の壁とは何か

前章では、あなたが扶養から外れてしまうときに負担させられる金額と、働き損の解消にどのくらい収入を増やせばいいのかを、扶養を外れる要因毎にみてきました。

しかし現実には、あなたがパート先の社会保険に加入したり、年収の見込みが130万円を超えて旦那さんの社会保険の被扶養者から外れると、旦那さんの「家族手当」あるいは「扶養手当」も減ってしまうでしょう。1と2または1と3は、同時に起こります。扶養を外れたら1+2か1+3の金額をカバーしないと、働き損は解消しません。

ちなみに2の要件であなたがパート先で社会保険に入ると、3の「130万円の壁」はなくなります。

さて、旦那さんの扶養手当が月額1~2万円減少することを前提にすると、前章の2が理由で扶養を外れる場合は106万円→1,304~1,454千円が主婦の「収入の壁」になります。

前章の3の要因で扶養を外れる場合は、あなたが社会保険に加入できるなら「収入の壁」は130万円→159~174万円となり、国民健康保険と国民年金になると130万円→1,734~1,884千円が「収入の壁」になります。

働き損が解消する収入金額に幅があるのは、旦那さんの所得によって税率がちがうからです。旦那さんの所得が少ない方が、多く稼がないと働き損が解消しないことに注意が必要です。

扶養の損益分岐点はいくらか

前章の「収入の壁」で、扶養を外れる場合の損益分岐点を示しました。しかし、他にもあなたの収入の増減が影響をあたえるものがあります。

たとえば保育園利用料。自治体ごと、世帯の合計所得によって月額利用料が決められ、所得額で数千円から1万円の単位で動きます。

そして高校の授業料無償化制度。これも世帯全体の所得金額が助成額を決めますが、10万円の単位で変動し所得制限もあります。

「収入の壁」を乗り越えないとあなたの所得は増えませんが、保育園使用料や高校の授業料が関係ある場合は、所得が増えたときの影響を確認しておくといいと思います。

いずれも住民税の納税額をベースに金額が確定していくので、もしあなたが今年の収入を大幅に増やすと、来年の保育園利用料や高校授業料の助成額に影響がでるかもしれません。

とくに旦那さんの所得が高めの方はご注意下さいね。うっかり所得を増やしてしまうと、所得制限にかかってしまう可能性があります。

もし保育園利用料があがったり、高校の授業料支援が減ってしまう場合は、あなたが社会保険に加入しているなら負担が増える分の33%増しぐらいの金額を、国民健康保険に加入しているなら負担が増える分の25%増しぐらいの金額を前章で計算した「収入の壁」に乗せると、行政サービス込みの「扶養を外れる損益分岐点」がかなり正確に計算できます。

まとめ

あなたが旦那さんの扶養を外れると、家計の手取り金額を外れる前よりも増やすのは、簡単ではありません。とくに注意して欲しいのは、旦那さんの勤め先の給与規定にある「家族手当」や「給与手当」の支給要件と、最初の章の2にあたる社会保険の加入要件です。

関連記事>>>パートで扶養を外れるタイミングと手続き 健康保険はどうなる

もし、収入の壁を超えて先に進みたいのなら、最初から「収入の壁」を超える給料が期待できる仕事に就くようにしましょう。公共サービスのコストまで考慮すると、超えなければならない収入の壁は、想像以上に厚いのではないでしょうか。

パート先の要請で仕事を増やして、結果的に成り行きで扶養を外れてしまうと、働き損の解消はかなりキツいでしょう。最初から狙っていく姿勢が大事だと思います。

お住いの地域で必要な収入の仕事があるかどうかは、こちらのサイトで勤務時間・日数など条件をしぼって検索すると、調べられます。

 

この記事が少しでも参考になることを願っています。

当ブログの扶養に関連する記事の一覧は、こちらからどうぞ
>>>扶養、扶養控除、扶養家族に関する記事の一覧

この記事はお役にたてましたか?

あなたのお役にたてたとしたら、
以下のソーシャルボタンで共有していただくと嬉しいです(^^)

コメント

  1. マム より:

    はじめまして。扶養外れることによる損益分岐について調べておりまして、大変分かりやすいブログに出会えたと感謝しています。
    ひとつ質問させていただきたいのですが、最後のあたり「国民健康保険と国民年金になると130万円→1,734~1,884千円が「収入の壁」になります。」とありますが、168万が分岐点とすると、差額の54,000円~204,000円はどこからくる金額でしょうか?
    ご教示いただけるとありがたいです。

    • ホペイロホペイロ より:

      つたない記事をお読みいただき、ありがとうございます。
      ご質問の54千円~204千円は、家族手当などの名目で配偶者が勤務先から支給されている手当が月1~2万円減額された場合の、税額を考慮したあとの年間手取り金額の減少分です。15万円の幅は、個々人の手当の減少額と適用される税率の違いによって生じます。
      168万円という損益分岐点は、自身の国民健康保険・国民年金及び税額の負担増だけを考慮した金額です。
      同時に配偶者の手当も減額されてしまうときは、その減少分が損益分岐点の水準を押し上げてしまいますよね。
      そのことを書いたつもりだったのですが、今読んでみるとかなりわかりにくい書き方になっていました。
      正確に書くなら、保険料と税金を引いたあとで54千円~204千円増やさなければいけないので、損益分岐点はさらに高い水準になりますね。

  2. マム より:

    詳しくありがとうございます。
    上の方にも書かれていましたね、失礼しました。
    もうひとつ、すみません。
    だとしたら、パート先の社会保険に加入できる場合も家族手当を鑑みて1554千円〜1704千円という事でしょうか?
    細かくてすみません。よろしくお願いします。

    • ホペイロホペイロ より:

      社会保険料の負担増を手取り金額で超えるのが、年収1,536千円という計算例なので、これに手当減少分の54千円~204千円を加えると、損益分岐点は159~174万円と書かなければいけませんでした。
      本文は150万円と書き間違えていたので、修正しておきます。
      本当はこれに1,536千円から増えた年収に対する社会保険料と税負担も考慮しないといけないので、実際にはプラス数千円ほど損益分岐点があがることになると思います。

タイトルとURLをコピーしました